ポリプロピレン
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目次
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ポリプロピレンとは
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プラスチック素材の一種。
参考しました [#a92fc4c3]
ポリプロピレンはポリエチレンなどと共にいわゆる汎用プラスチックといわれるもので,皆様にもおなじみのポリマー(重合体)である。比較的安価で軽量(密度0.90―0.91),高融点(160―170℃)で成形加工の容易さのために自動車部品,家庭電化製品,食品包装フィルム,玩具,雑貨などに幅広い需要があり,日本では1年に200万トン近くが,また世界では1000万トン以上が生産されている。ポリプロピレンはたくさんのプロピレン(CH3CH=CH2)が手を二本ずつ出し合って長い鎖をつくっているもので,手のつなぎ方にいく通りかがある。図1に示すように一つ置きにあるメチル基(CH3)の枝が立体的に一方向にのみ出る場合(アイソタクチックポリプロピレンと呼ばれる),互い違いに出る場合(シンジオタクチックポリプロピレン),全く無秩序に出る場合(アタクチックポリプロピレン)があり,普通,わずかではあるが部分的な乱れが存在する。いずれの場合にもメチル基がついている炭素と他のプロピレンのメチル基のない炭素の間,いわゆる頭と尾が結合して炭素鎖ができあがっているが,時々,頭と頭や尾と尾で結合してしまうという間違いを起こすこともある。これらの立体構造の違いや配列の乱れによってポリプロピレンの性質は大きく変化する。アタクチックポリプロピレンは油状でありほとんど工業的価値はない。現在,市販されているものはすべてアイソタクチックポリプロピレンであり,シンジオタクチックポリプロピレンはアイソタクチックポリプロピレンにはない面白い物性を持つことが分かっているが,まだ実用に供されるに至っていない。プロピレンの親類であるエチレン(CH2=CH2)の重合では手のつなぎ方が一種類しかなく,たいていの重合法でプラスチックとして使えるポリマーを与えるのに対して,プロピレンの場合にはそう簡単ではない。これはいま述べたように,手のつなぎ方に規則性が要求されるからである。ここでポリエチレンやポリプロピレンの歴史に触れておこう。
ポリプロピレンが生まれるまで
第二次世界大戦の末期に日本軍が打ち落とした連合国側の飛行機から見慣れない絶縁材料が通信機器に使われているのが見つかった。分析をしてみると炭素と水素が1:2の比で含まれていることから日本では当時,まだ合成されていなかったポリエチレンらしいことが判明した。その頃(1943年),英国のICI社では酸素やペルオキシドを重合開始剤とするエチレンのラジカル重合によってポリエチレンの製造に成功していたが,100―250℃,100―300気圧という過酷な条件が必要であり,爆発が起こりやすく,反応の制御が難しいため,戦時中の日本での合成の試みは失敗に終わったということである。化学結合(共有結合)は二つの原子がそれぞれ一個ずつの電子を出し合い,電子対を共有することによってできるが,ラジカルというのは対になっていない電子をもつ(R・のように書き表す),極めて反応性に富んだ化学種のことで式1のようにエチレンの二重結合を攻撃して新しいラジカルになり,これが繰り返され高分子量のポリエチレンに成長していくわけである。 (式1)
ラジカルの特徴として炭素と水素の結合を持つ化合物から水素を引き抜く作用もある。成長しているポリエチレン鎖の途中の水素原子が引き抜かれ,そこに新しいラジカルが生じる結果,ここからもエチレン鎖が成長し,長い枝をたくさん持ったポリエチレンになってしまう。従って,この高圧法で得られるポリエチレンは密度(0.910―0.925)や融点(107―120℃)が低くなるが透明度がよく,それなりに用途もあるので現在でも製造されている。
1953年頃,ドイツのマックスプランク石炭研究所のZiegler教授はトリエチルアルミニウムという有機金属化合物とエチレンを110℃,100気圧という条件で反応させることにより,分子量の大きいアルミニウム化合物に誘導するという実験を行っていた。ある時,Ziegler教授の命を受けてこの実験に従事していた研究者がこれまでと違って,反応が全く起こらなくなるという結果に遭遇してしまった。よくよく調べてみると反応が進まなかったのではなく,使用したエチレンが殆ど二量化して,やはりエチレンと同じように気体であるブテンに変化してしまっていたのである。使用した高圧反応容器(オートクレーブ)に先に他の研究者が使ったニッケル化合物が完全に洗浄されずに付着していて,それがトリエチルアルミニウムと反応して極めて活発なエチレンのニ量化触媒として働く化合物に変化していたことが明らかになった。直ちに,エチレンの反応に対してニッケル以外の他の金属化合物とトリエチルアルミニウムの組み合わせがどのような効果を示すかについて研究が進められて,ニッケルの場合とは逆にチタニウムやジルコニウムの化合物では高分子量のポリエチレンを与えることが見いだされた。ICI法では高温,高圧を要したエチレンの重合を常温,常圧でやってのけることのできる触媒であり,ラジカル重合とは違って枝分かれのない,高密度(0.941―0.965),高融点(120―140℃)のポリエチレンが得られるのが特徴で,工業的に極めて価値の高い大発見である。このように偶然の機会に大きな発見をすることは科学研究の歴史上,しばしば見られる。この特許収入でマックスプランク石炭研究所はその後25年間,財政的に大いに潤うことになる。
Ziegler教授の発見を聞いて研究上,関係のあったイタリアの化学会社モンテカチニ社から見学にやってきたNatta(後にミラノ大学教授になる)はこの新しい重合触媒をもってしてもプラスチックとして利用可能なポリプロピレンを製造することはできないことを知り研究を開始し,すぐさま四塩化チタニウムの代わりに三塩化チタニウムを用いるという簡単な改良でアイソタクチックポリプロピレンができることを発見することになる。大魚のそばにもう一匹の大魚がいたのである。というのは,当時,石油生成工業では副生する利用価値の少ないプロピレンの始末に困っていたので,プロピレンが新しいプラスチックの原料になることは経済的に莫大な利益につながることであったのである。当時,日本の多くの化学会社が特許権の獲得をめざしてモンテカチニ社に日参し”もんて詣り”という言葉が生まれたほどである。ともあれエチレンやプロピレンの重合触媒(総称してZiegler-Natta触媒という)の発見,その後のポリマー立体化学の進歩に対する貢献によってZieglerとNattaは共に1963年度のノーベル化学賞を受けることになる。
どうしてアイソタクチック重合が可能になるのか
図2:プロピレンの二重結合が開いた場合の立体構造
*を付した炭素の立体化学は右手と左手の関係になり重ね合わせられない
プロピレンを構成する三つの炭素と二重結合に直結する三つの水素は同じ面内にある。図2に示すようにプロピレンが重合するために手を開くときに上側(有機化学の約束ではこの面をre面という)に開くか下側(si面)に開くかの違いで,生成する三次元構造の*で示した炭素部分がお互いに重ね合わせられない右手と左手の関係になる。常に同じ側に手を開いて重合すればアイソタクチック重合,交互に開けばシンジオタクチック重合,そして,無秩序に開けばアタクチック重合というわけである。
それでは,なぜ三塩化チタニウムとトリエチルアルミニウムの組み合わせた場合にアイソタクチック重合が実現されるのであろうか。四塩化チタニウムと違って三塩化チタニウムと塩素からなる規則正しい配列が見られ,トリエチルアルミニウムとの反応によりプロピレンが一方の面でしか結合できない触媒活性な部分ができる。すなわち,プロピレンという鍵に合う鍵穴が存在するということである。この鍵穴の部分でプロピレンが繰り返し手を開きながら重合していくわけである。生物の体を作っている物質,例えばアミノ酸や糖類は右手系や左手系のみでできている場合が多く,生体内でこれらが合成されるときも,同じような鍵と鍵穴の関係が働く。高分子合成の世界にもこのとき初めて生体系類似の立体規則性の制御が行われるようになったのである。三塩化チタニウムの表面構造をもっと上手にデザインできればより分子量や立体規則性の高度な制御が可能になるはずである。現在,工業的に使われている触媒系は改良に改良が重ねられて初期のZiegler-Natta触媒とは比べものにならない優れたものになっている。
さらに新しいプロピレンの重合触媒の誕生と展開
三塩化チタニウムとトリエチルアルミニウムを反応させて得られる触媒は溶媒に溶けない固体状態である。固体表面には平らな部分,段になったところ,くぼみ,角など,様々な環境が混在する結果,プロピレンの重合の活性点である鍵穴の近辺の環境も微妙に異なり,得られるポリマーの構造や性質に多少の幅が生じるのもやむを得ない。図3:メタロセン
(3-1) フェロセン
(3-2) ジルコノセンジクロリド
(3-3) 触媒活性種
最近,有機溶媒に溶けるエチレンやプロピレンの重合触媒系が発見された。トリメチルアルミニウムを部分的に水と反応させた化合物であるメチルアルモキサンという化合物とジルコノセンジクロリドを組み合わせたものであり,上記の固体触媒に匹敵する極めて活性な重合触媒になる。図3-2に示すようにジルコノセンジクロリドというのは5つの炭素よりなる五員環(シクロペンタジエニル基という)が二つ,ジルコニウムに結合した形の化合物である。同じ五員環が鉄原子をサンドイッチ状にはさんだ化合物は有機金属化学の歴史上で有名なフェロセン(図3-1)であり,このように2つの五員環ではさまれた金属化合物はメタロセンと総称されている。メタロセンの五員環はその中心と金属を結ぶ軸の回りをくるくると回転している。少し専門的になりすぎるがジルコノセンジクロリドとメチルアルモキサンの反応で生成する触媒活性種は図3-3に示すような陽イオン種であることが分かっている。白抜きの箱で示してある部分にエチレンやプロピレンが配位して重合が始まることになる。この部分は配位面を制御できる鍵穴のような構造にはなっていないのでプロピレンはどちらの面を向けてでも結合可能であり,アタクチックポリプロピレンしか与えない。しかし,五員環部分を修飾し,二つの環を架橋したジルコノセン誘導体を合成することでこの問題はすぐに解決された。すなわち,五員環部分に六員環のベンゼン環が融合した化合物(インデニル基という)を用い,さらに,二つのインデニル基の間をエチレン鎖で架橋してその回転を止めると,図4-1に示すように右手と左手の関係にある鏡像体が得られる。
この化合物とメチルアルモキサンを組み合わせた系を触媒とした場合,図3-3で示した白抜きの箱に相当する部分は置換基(この場合はベンゼン環)からの立体的な制約を受けてプロピレンの配位面を規制し,アイソタクチック重合が実現できることになる。新しいプロピレンの重合触媒の誕生である。この触媒系の活性種は分子化合物であって,複雑な個体表面構造が関与しないので,活性点の構造が単純明快であり,分子量の揃った,精密に制御された立体構造をもつアイソタクチックポリプロピレンの合成が可能になる。このように分子のレベルで触媒反応を制御することは触媒化学者の長年の夢であったわけであり,工業的な重要性もあって現在,多くの研究者がより優れたメタロセン系触媒の開発にしのぎを削っている。この研究の延長線上でシンジオタクチックポリプロピレン合成のための触媒もデザインされた。我々の研究室でもシクロペンタジエニル基にいろいろな種類の置換基をもち,ケイ素で架橋したジルコニウムやハフニウム化合物を合成し,それらの構造と得られるポリプロピレンの微細構造の相関を調べる研究を行っている。既に,図4-2に示すような構造のジルコニウム化合物が優れたプロピレンのアイソタクチック重合触媒になることを見いだしており,さらなる展開を夢見ながら学生たちと一緒に日夜,研究に精進している次第である。皆様のご声援をお願いしたい。
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